目指すは、地震予測から地震予知へ――村井俊治 東京大学名誉教授が語る「ミニプレート理論」

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2020.02.07

JESEA地震科学探査機構では、日本列島を構成するプレートを8つに分類した「ミニプレート理論」を地震予測に活用しています。今回は、その誕生の経緯、ミニプレートの分類や特徴などについて、解説します。

日本列島を構成する8つのミニプレート

地震のニュースなどで、たびたび登場する<太平洋プレート>や<フィリピン海プレート>と呼ばれているのは、地下にある巨大な岩盤のことです。JESEA地震科学探査機構では、2016年に発生した熊本地震を解析するなかで、日本列島の地下には同一方向に動くいくつかの塊があり、その“ミニプレート”が動くことで、境界部にひずみが溜まり、地震が発生しているという「ミニプレート理論」とも言うべき仮説に辿り着きました。

まず、日本列島を測位衛星の三次元データをもとに、いくつかの塊(クラスタ)に分類することにしました。その数は、地震発生との相関を調査する上で、「8つが最適である」という結果に至りました。

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8つのクラスタ(ミニプレート)に分類された日本列島

次に、JESEA地震科学探査機構が設定した「ミニプレート①から⑧が主にどのエリアに分類される」のかを解説します。

ミニプレート①

中央構造ミニプレート=北海道北部・中部・西部、関東〜東海〜近畿の太平洋ベルト地帯、四国北部、九州の一部(大分県北部、熊本県北部)。
ミニプレート①は、“日本の大断層帯”といわれる中央構造線を含みます。

断層とは、地下の岩盤に力が加わり、ずれた状態を指します。また地震のニュースなどで登場する「活断層」とは、将来的にそのずれが地震を生む可能性を持つ断層のことです。しかし「断層によって地震が起きる」という十分な根拠はありません。これに対して、JESEA地震科学探査機構では、断層ではなく、「ミニプレートが動くから地震が起きる」という仮説を立て、分析を進めています。

ミニプレート②

南寄り中央構造ミニプレート=北海道北東部、南関東、東海南部、紀伊半島南部、四国中部、九州の一部(大分県中部、熊本県中部)。

ミニプレート③

南岸ミニプレート=北海道東部、房総半島南端、伊豆半島南端、紀伊半島南端、四国南部。

ミニプレート④

北寄り中央構造ミニプレート=北海道南部、関東〜中部〜近畿の内陸部、山陽、九州北部、宮崎県北部。

ミニプレート⑤

島根・茨城横断ミニプレート=北海道南端、下北半島、津軽半島、北関東沿岸〜内陸部、長野県北部〜北陸、山陰、九州西部および南部。

ミニプレート⑥

新潟・福島横断ミニプレート=青森県(ミニプレート⑤のエリアを除く)、福島県〜新潟県〜富山県〜能登半島。

ミニプレート⑦

出羽ミニプレート=東北(ミニプレート⑤、⑥、⑧のエリアを除く)、新潟県北部。

ミニプレート⑧

北上ミニプレート=岩手県〜宮城県沿岸部。
このミニプレートは、東日本大震災でもっとも激しく変動し、津波の被害がいちばん甚大だった場所です。

測量工学の「ミニプレート」と、地質学の「地体構造図」

ミニプレート①から⑧は、測位衛星に日々蓄積されるデータによって導き出したものであり、科学的な根拠をもって、作成(分類)されたものです。そのため、ミニプレートは定量的であり、動的であり、再現性があります。

一方で、地質学において「地体構造図」というものが存在します。これは、地質学者がそれぞれの現地調査や経験によって作成しているため、作成者によって内容が異なるほか、情報がアップデートされることもほとんどありません。

「ミニプレート分類図」と「地体構造図」を比較してみましょう。

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(左)ミニプレート分類図、(右)地体構造図

中央構造線に沿ったエリアは、類似点も多く見られますが、東北から関東にまたがるエリアにおいては、「ミニプレート分類図」の方がより細分化されています。
下の図は、「ミニプレート分類図」に、2008年1月から2018年6月までに発生した最大震度5弱以上の地震の震源を重ね合わせたものです。この図から、内陸を震源としている地震の多くは、「ミニプレートの境界付近」で発生していることが見えてきます。

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ミニプレート分類図と震度5弱以上の地震

一方、こちらの図は「地体構造図」に、2008年1月から2018年6月までに発生した最大震度5弱以上の地震の震源を重ね合わせたものです。この図からは、異なる地体の境界と地震の震源地に、相関関係を見つけることはできません。

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地体構造図と震度5弱以上の地震

内陸地震の多くは「ミニプレートの境界付近」で起きている

さらにJESEA地震科学探査機構では、地表の変動を観測している電子基準点の情報をもとに、「ミニプレートの境界」を緻密に分析したのが下の図です。

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ミニプレートの境界と震度5弱以上の地震

震度5弱以上の地震が発生した場所が「境界付近」の場合は“緑の円”、「非境界」の場合は“黄色の円”で示されています。この適合率を計算したところ、震度5弱以上の内陸地震の「約7割はミニプレート付近で発生している」ことが判明しました。

具体例を挙げるならば、2018年に発生した島根県西部地震(M6.1、最大震度5強)、長野県北部地震(M5.2、最大震度5弱)、大阪府北部地震(M6.1、最大震度6弱)は、すべてミニプレートの境界付近を震源とした地震です。

目指すは、地震予測から地震予知へ

JESEA地震科学探査機構では「ミニプレート理論」だけでなく、さまざまな科学的なアプローチ、データを組み合わせることによって、地震の予測を行っています。AIなどの最新テクノロジーも分析に取り入れることで、「地震予測から地震予知へ」と精度の向上を目指し、日夜地震の研究を進めています。

村井俊治著書『地震予測は進化する! 「ミニプレート」理論と地殻変動』より抜粋

JESEA 取締役会長 東京大学名誉教授 村井俊治

JESEA 名誉会長
東京大学名誉教授

村井俊治