2019.12.26
地震は地下深部で起きる現象であるが、地震の数日から数週間前にも異常な前兆現象を起こし、地下から地中、地表、空中、宇宙に異常な電磁波、超低周波の音波、放射性ガス噴出の形で伝搬されることが分かっている。著者らは、準天頂衛星の搬送波位相に超微小な異常が地震の前に現れることを検知することで、地震予知を可能にする方法を開発した。この手法は2019年8月2日に特許として登録された(特許第562588号)。
測位衛星の原データはRINEXで与えられるが、衛星番号、時刻、搬送波位相、疑似距離などが記録されている。
科学的理由は未知であるが、地震の前に搬送波位相および疑似距離に異常な値が現れることは知られていた。推量の範囲であるが電離圏の電子数が異常に増加する、または電離圏が地球に近い方に膨張することを利用して地震予知を行う試みをしている研究者もいる。
著者らは、推量や仮定を排除し、観測された科学的データに準拠した地震予知ができないかを模索してきた。この考え方は、観測を基本とするリモートセンシングの考え方であり、地震予知はリモートセンシングで可能なことを立証したかった。
搬送波位相の方が疑似距離より精度が高いことを確認したので、搬送波位相の中に地震の前兆となる異常値が現れるはずだと考えた。
2011年3月11日に起きた東日本大震災の地震は過去最大規模であることから、震災10日前から当日までの国土地理院の電子基準点「気仙沼」のRINEXの搬送波位相データにおそらく前兆と思われる異常が現れるに違いないと考え、検証することにした。
2011年3月1日における「気仙沼」のGPSNo.5の搬送波位相データ(以降L1データと略称する)を描くと放物線状の湾曲した曲線(図1参照)に見える。
原曲線からは異常を発見することはできない。そこで差分を計算してみたが、図2に示すように、同じく異常は発見できなかった。一次差分のL1曲線は単純な放物線ではなく複雑な次元の曲線であることが分かったので二次差分を計算してみた。
図3はL1の二次差分の曲線であるが、数カ所にわずかな異常変動が見られた。一次差分の曲線同様、ベースになっている曲線は単純な曲線でなく、いかに曲線の上に出ている異常を抽出するかが問題になった。著者らは特殊方法で異常検出に成功し特許を取得できた。
東日本大震災以降でM6以上および震度6弱以上の大地震8個を選んで果たして地震の前に搬送波位相データに異常が認められるか否か検証をした。
紙面の都合で震度7の東日本大震災、熊本地震および胆振東部地震の3個の大地震について、震度が大きかった代表的な地点のL1の異常値を図4に示す。
以上に示した搬送波位相データによる地震前の前兆検出の検証はGPSデータを使用して実施したが、準天頂(QZSS)のRINEXデータを使用した方がベターであることが判明した。理由はGPSに比べて受信時間が長いこと、エラーやノイズが少ないこと、GPSは32機であるがQZSSは4機であるので計算が簡易になること、わが国が上げた測位衛星が地震予知に利用可能であることを宣伝できることである。
大地震のチャンピョンデータでは2週間前までに前兆が現れていたが、QZSSを使用した詳細な検証を進めており、直前の地震予知の確立に期待したい。